story
植物たちは、何も起こらなかったかのように動いていました。
全国に自生する「葛」という植物。
普段目にする葛は、雑草としてのイメージが強いのですが、日本では古来から、根は、食の原料や薬として。葉は、家畜の飼料として。蔓は、編んで籠や縄として。そして、微生物の力を借りて蔓から繊維を取り出し、布を織を織ることでも日常生活に取り入れられてきました。
2020年。COVID-19 によるパンデミックの中、私はふと、何か発見があるように思い、「葛」からの糸作りに取り組むことにました。
この昔から伝わる葛糸作りは、葛蔓を採取後、窯で茹で、ススキで作った「室」の中で発酵させます。数日後、発酵が“ちょうど良い”状態時に、室から取り出し川で洗うと、糸を抽出することができます。
作業をする前に思っていたこと。葛を刈るのは簡単です。発酵中は何もしません。葛を沢山刈れば、沢山の糸が作れると思っていました。
しかし、作業を行ってみて感じたことは違いました。
発酵させるためには発酵させる分だけのススキが必要です。沢山の葛蔓を発酵させようと思えば、必死になってススキを刈り続けないといけません。また、発酵は途中で待ってはくれません。この作業は時間と体力・気力の勝負。ちょうど良い“その時”に、洗い終えることができなかったものは、全てただのゴミとなります。
あたりまえのことかもしれませんが、植物、動物、人間、ウイルス、太陽、気候..。
生命のサイクルの中、さまざまな形で共に繋がって在ると感じました。「ちょうどいい量」自然の流れの中で働くことができる量。
そうして抽出した糸は、とても美しく、愛おしく感じます。
共存すること。生命の循環。それは、無理がなく、とても美しいことと思いました。